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CD199到着!

一昨日ニューヨークから成田に到着したCD199が、通関を終え、一緒に送られてきたMODEL-Lとともに、ついにスタジオにやってきた。
これで我がコンサート&アーティスト部は、完璧なラインナップになったのである。

まず、すっかり有名になってしまったローズウッド爺さんは、1887年~1925年まで活躍した楽器。
音楽的にも技術的にも、非常に興味深い。
この楽器が製造された1887年頃は、まだスタインウェイは他社と壮絶な戦いのさなかであり、フレームに所狭しと鋳込まれた数多くのパテントが、その執念を物語っている。
楽器としての進化の過程としては、まだ、ロマン派のフォルテ・ピアノのような雰囲気を色濃く残し、その独特の中音域の音色は、まさに、サロンでコンサートを楽しんでいた時代が蘇ってくるような、暖かい音がする。
その後1891年にカーネギーホールがオープンすると、その空間の大きさに殆どの楽器は音量を上げる改良を余儀なくされ、オーケストラも、現在のような大編成になるなど、まさにこの時代に近代クラシックが完成されたわけである。

ピアノも例外ではなかったが、ヨーロッパの名器たちは、そんな巨大なコンサートホール等で弾くことを想定して設計されていなかったのと、新国アメリカでのできごとなどに全く無関心だったため、時代に乗り遅れることとなった。
新参者のスタインウェイは、ニューヨークで創業した事とも相成って、柔らか頭で次々問題を科学的に分析、改良を繰り返す。
これに、当時ニューヨーク中に集まっていた、のちの巨匠たち(ラフマニノフ、ホフマン、パデレフスキー等など)が積極的にアドバイス。
例えるならば、アラン・プロスト、アイルトン・セナ、シューマッハ等などの天才レーサーを全員抱えたF1チームのようなもので、メカニックに与える要求はまさに芸術的な域に達し、且つ正確。
マシーンは急速に早く確実になって行く・・・みたいな事だったに違いない。何てわかりやすい例えだろう(笑)

さて、ピアノの話に戻るけど、タカギクラヴィア・コンサート部のフラッグシップ、「F1」と呼ばれている1989年製MODEL-Dは、先月14年ぶりにニューヨークに里帰りしてサウンドボードを張り替え、私の理想とする新世代スタインウェイに若返って帰国した。
先日の日記でも触れたように、1887年~1925年を駆け抜けたローズウッド爺さんと、1989年のF1までの間があまりにも広いため、その間を埋められる楽器をずっと探していたのだが、なかなかこれは!という楽器が見つからず、F1の弦圧を下げたり、小型のハンマーを付けたりと、試行錯誤をやりつくした末に、やっとCD199を見つけたのである。

1922年製のこのCD199は、1950年までの間スタインウェイ本社コンサート部の貸出用として活躍していた楽器だ。
1920年代のスタインウェイは、ゴールデンエイジと呼ばれるほどクオリティが高い。それは先に述べたように巨匠達の時代真っ只中であり、近代クラシックの黄金時代の楽器だからである。
梱包を解かれたCD199は、威風堂々とした姿を現した。
1887年のローズウッド爺さんが持っていたロマン派の独特の香りは消え、すでに時代はスタィンウェイの天下となっていたので、あれだけフレームに鋳込まれていたパテントNO.もすっかり姿を消して、多くの巨匠達と過ごしてきたキャリアの末のデザインは余裕すら感じる。
ジャズからポップスまでこなせる、最新のスタインウェイをデジタルと表現するならば、CD199は完璧なアナログ時代のスタインウェイだ。

1887年~1950年までの、クラシック黄金時代を代表するローズウッドとCD199。そして若さとパワーを蓄えた新世代のF1。
来年からお目見えするこの3台のスタインウェイが、クラシック黄金時代からの100年の歴史を、すべて物語ってくれるであろう・・・楽しみだ!