ショパンピアノ作品全曲演奏会も三回目。
今日は22~25歳までの作品だ。
今回のピアニストは、武田美和子さん。いつも2台ピアノで一緒に日本中を回っている仲間だ。
1ヶ月後に自分のリサイタルがあるのに、この過酷なプログラムを引き受けてくれた。
ゴールデンウイークも始まったのに、大入り満員だ。
演奏の前に、その曲の背景を小坂さんがわかりやすく解説してくれるので、目から鱗である。
私と小坂さんの企画で始めたプロジェクトだから、手抜き無し!
後期ロマン派の時代のピアノを使い、ピアニストは私が選んだトップアーティスト達。
その演奏を目の前で聴けるサロンならではの贅沢。
それにしても、今日のプログラムは過酷だった。
曲は多いし長いし、これを全部暗譜してきてくれた!流石にプロ根性、恐るべし武田美和子!
この無理なお願いを聞いてくれたピアニスト諸君、これから私はお返しをするからね!(笑)
前から欲しいと思っていた、ソニーPCM-D1を急に思い立って買ってきました。

内蔵のフラッシュメモリーに、96k24bitで、2時間録音できる優れもの!
オプションのファンタム電源付きマイクアダプターを通してB&Kのマイクを繋げば、いつもの録音機材が、馬鹿馬鹿しい位コンパクトになってしまう。サロンの録音機材には、最適!
レコード会社のエンジニア達に聞いたら、
「いや、あれは良いよね~でも、俺達には見栄えってのもあるからさあ…」(笑)
確かに、モニタールームには録音機材をずらっと並べた見栄えも必要(笑)
96k24bit録音はCDやDATよりも、高音質でとれるから、マイクさえ良ければ、理論上は高音質。
内蔵のフラッシュメモリーの他にメモリースティックも2GBまで使用できると説明書には書いてあったが、試しに4GBのメモリースティックを入れてみても、問題なく使えたので、メモリースティックでも96K24bitで2時間録音できる事がわかった。
早速ヤマダ電気に行って、外付けハードディスクも買ってきて、このレコーダー専用の保存用にする事にした。全く、渋谷に住んでいると、東急ハンズやドン・キホーテやビックカメラなどなど、何でも歩いて買いに行けるから、便利と言うか不便と言うか、お金がかかる。
話しは変わるけど、ヤマダ電気の一階にある、ICレコーダーのコーナーでは、ヘッドフォンでサンプル音源が試聴 できるのだけど、オリンパスの高級レコーダーのピアノの音を聴いてびっくりした。
おいおい、調律ぐらいしろよ(笑)
これをサンプル音源にしたら、返って逆効果だと思うけどねぇ…。
このソニーのレコーダーのサンプル音源のピアノの音も、ちょっとねぇ…
それより、カタログの写真のピアノの屋根の支え棒の位置が半開の位置になってて危険(笑)
いつも思うけど、オーディオの関係の人達はピアノの事をもっと勉強しましょう。
そんな事はどうでも良いけど、データー上では素晴らしいハードを作って頂いたメーカーさんに感謝して、我々はせいぜい良いソフトを作る事に専念します(笑)
朝、ホールからの電話で起こされる。
「高木さーん!NHKの人が、調律にまだ来ないと言ってるので、すぐ来てください!」
え?今日は朝10時からリハーサルなので、昨日やったのに??
まったく、船頭多くして船、山に登る状態だな(笑)と思いつつ、チェックアウトして、ホールに向かう。
ステージでは、昨日すっかり用意ができたピアノが鎮座しているし、とりあえず屋根を開けてチェックをしていると、NHKのスタッフの人達が名刺を持って挨拶に来た。
良くみたら、東京のNHKで名曲リサイクルじゃなくてリサイタル収録した時にいたスタッフだ。
徳島のNHKのスタッフかと思ってたのでビックリ、向こうもビックリ(笑)
そうこうしてると、今日の主役、アーティストの高木綾子が入ってきた。
私は勿論知ってたけど、彼女は知らないから、振り返ってビックリ
「ギャー何でここに居るのお~!」
10年位前、我々がコロムビアとJクラシックを始めた頃に発掘したアーティストの1人で、名字が同じということもあり、妹のようだと可愛がっていた。
みんなには親子ならわかるけどね~と言われてたけど(笑)
楽器がフルートだし、ここ5年位はご無沙汰だったので、久しぶりに会える今回のコンサートは楽しみだった。

無事公開録音も終わり、私はパジェロで次の目的地、名古屋を目指す。
ようやく土曜日にあたったので、私も高速道路1000円割引の恩恵に預かるわけだ。
大渋滞を予測して、今夜は多賀のハイウェイホテルを予約してあったけど、何と道はスイスイで、20時には多賀に着いてしまう勢いなので、新しい草津パーキングのコンビニで日本蕎麦を買って食べた。またダイエット再開しないと、ここのところまた、肥りだした(悲)
古座川では、あれだけ人に食べさせておきながら、テレビのニュースを見つつ
「和歌山のカレー事件の林真澄に似てる」とか
「ロス疑惑の三浦一義に似てる」とか散々だ(笑)
そんな事を考えて走ってたら、何と新名神に入ってしまった!
草津パーキングから本線に戻る看板のわかりにくい事!
やむなく次のインターで降りてUターンでまた新名神から名神に戻り、余計にまた千円かかってしまった(悔)
多賀のハイウェイホテルでゆっくり風呂に入って体重を計る。
ゲッ!明らかに古座川太りだ!これじゃ本当に高木ブーになってきた(泣)
古座川で2泊して、昨日、東京に戻るスタッフを紀伊勝浦駅に下ろした。
私はそのままパジェロで新宮から紀伊半島を縦断して田辺に出て、和歌山港に到着。
19時26分発の徳島行きフェリーに乗って、22時には阿南のホテルに着いた。
朝6時27分、品川発ののぞみで名古屋に出発。
名古屋で紀勢本線、南紀1号に乗り換えて紀伊勝浦に向かう。
尾鷲あたりから、大雨になってきた。
品川から約5時間で紀伊勝浦に到着。
京都~徳島~奈良と仕事をしながら、山越をしてきたスタッフのパジェロと合流。
古座川の岡田邸に向かう。
先月から、オーバーホールを始めたピアノがあるので、今年は関西方面に来ると古座川に 立ち寄るはめになった。
勿論それはスタッフの仕事だけど、私は岡田さんと、次のレコーディングの打ち合わせもかねて、大好きな紀州の山と海の空気を吸いに来れるので、なるべく一緒に来る事にしている。
夜は新鮮なマグロの刺身で歓待してもらった。
うまい具合に仕事は分散してくれないものだ。
今日は篠原涼子さんの企画で、ご主人市村さんの還暦祝いマル秘パーティーが入っていたけど、徹子の部屋の収録や、他のピアノ持ち込み依頼がどんどん重なって、スケジュール手配が大変だ。
市村さんは、ご存知「海の上のピアニスト」の主役で2年間、一緒に日本中を回った。
あの頃確か53、4だったから、もう6年もたつのか・・・早いね。
まだ新人だった稲本響も、この作品で有名になった。
今日のパーティー内容は、市村さんにはサプライズらしい(笑)
高層ビル最上階のレストランは、抜群の展望のようだ。
残念ながら、エレベーターにはB型しか入らなかったが、響も演奏のプレゼントをする。
ここはピアノを起こして入れなければならないので、さぶちゃんに任せることにした。
私はテレビ朝日で徹子の部屋の収録中。こっちが終わったら駆けつける予定だ。
昨日は結構面白い1日だった。
夕方、私が事務所に戻ってきたら、新会社のメンバー2人が打ち合わせ中。
スタジオでは、レコーディングエンジニアのSちゃんが、ディレクターのNさん、Vnの加藤知子さんとで昨年録音したシューマンの編集中。
サロンではOさんの音楽事務所がオーディション中。
何と、この中でユニバーサル~エイベックス系のディレクターNさん以外は全員、元・コロムビアや現・コロムビアの社員だ!
みんな入ってくるなり、「あれ?あれ?どうも~」とか・・・。
偶然とは言え、コロムビアに会社を占拠された1日だ(笑)
4月も、もう半ばを過ぎた。
毎年恒例のラフォールジュルネももうすぐ始まる。
今年はバッハということもあって、オルガンチェンバロがメインだし、開催期間も半分になったので、ピアノはあまり使わないのかと思いきや、またかなりの台数のピアノの貸し出し依頼が入って来た。
毎年ゴールデンウイークは国際フォーラム通いだ(笑)。
社内では、4月からマネジメント部門を新会社として独立させたので、デスクも増えて、社員も研究生も増えて、事務所も手狭になってきた。
今日は1日事務所で、今年のツアーや、イベントのスケジュール組みに追われる。
続々と入って来る持ち込み依頼をカレンダーに入れて行ったら、今年も全国駆けめぐりだ(笑)
沖縄、鹿児島、福岡、佐世保と、今年は九州方面が多い。
山口、和歌山、福井も入ってきた。新規にホールのピアノ保守点検依頼も飛び込んで来る。
前から頼まれていた、私自身のレクチャーも、とうとう決まってしまったみたいだ(笑)
7月8月9月に毎月1回、2時間程度、ピアノ、スタインウェイの歴史から裏話、調律や、クラシック業界、レコーディング事情、おまけに自分の話等々をレクチャーしてくれとの依頼。
何しろ2時間×3回と、たっぷり時間を与えられているので、何だか余計な事まで話してしまいそう(笑)
定員30人位で、何か飲みながらやりましょうとか、質疑応答形式でやりましょうとか、アイデアを貰ったけど、果たして私の話なぞ聞きに来る人がそんなにいるのかなあ…(笑)
明日1回目の打ち合わせをしますが、とりあえず第1回は7月18日に、目白の明日館にて、と既に決まっているらしいので、興味のある人は是非おいで下さい!(笑)
いよいよ先月から述べ5日間に渡って行われた後期ロマン派レコーディングも最終日だ。
さて、昨日お約束のマイクの話。
このテーマは近々、まとめて本にしようかと思っていたぐらい奥が深くて、演奏家にとっては切実な問題だ。ちょっと話が長くなるけどご容赦を。
昨日のマイクテストの時、ピアニストの松本君が希望を言った。
要約すると、
1)限界に近いピアニシモ出しているのに、モニターで聞くとピアニシモに聞こえない。
2)音色の変化がニュアンスとして伝わらない。
故に
1)もう少しマイクを ピアノから離してほしい。
2)ライブ録音のように、音源(ピアノ)が遠くにあるようにしたい。
大体こんな話だった。
結論は最後に書くとして、なかなか本質を突いた鋭い質問だ。
クラシックの録音ではピアノに限らず、多かれ少なかれ行き当たる問題でもある。
演奏家がレコーディングで自分の演奏を初めてプレイバックで聞いた時、ほとんどの人がステージで弾きながら聴いている自分の音とのギャップに驚く。
演奏家が決して生で体験することができない「自分の音を客席側から聴く」という感覚・・。
まずはここから始まる違和感。
グランドピアノの場合、ピアニストは右耳で高音部を、左耳で低音部を聴いているので、低音~高音をスケールで弾けば音は左から~右へ流れて行く。
しかしCDではほとんど客席側にマイクを立てるので、低音は右、高音は左から聴こえてくる。
次はマイクと音源との距離だ。これに至っては、エンジニアによって千差万別!
ここ15年くらいにクラシックではすっかりスタンダードなマイクになってしまったB&Kとショップス、90%以上がこれだ。ここ数年ゼンハイザーも使われるようになってきた。
このコンデンサーマイク達はいずれも甲乙つけがたい固有の音色を持っていて、超高域まで特性はフラット。もちろん高感度なので、これらのマイクを音源からの距離、高さ角度を微妙に変えることによって、広がり、奥行き、フオーカス、空気感をいろいろ変える技を持つのがレコーディング・エンジニアだ。
この人たちの仕事の領域は時として、コンサートチューナーの仕事と重なる事がある。
理想としては、演奏家が満足して弾いているステージ上の音を忠実に拾って録音してくれるのがベストだけれど、マイクアレンジでそれが限界だと感じた時には、いよいよピアノの方の調整を変えて、それを手助けする事がある。
その場合も、ピアニストに違和感がないくらいにとどめるべきではある。
調律師にも経験やセンスでその腕にピンからキリまでいるように、レコーディング・エンジニアもさまざまだ。
クラシックの録音で1番困るのが、リスナーにオーディオマニアとクラシックマニアがいる事だ。
元々クラシックの演奏家で自分でレコーディングを始めた人が何人かいる。
その場合例外なくマイクは音源(楽器や歌)からかなり遠い所にマイクを立てる。
オーディオマニアは、音源の直近にマイクを立てる。
中にはピアノの中に頭を突っ込んだような録音を、良い音だと言ったりする。
こういうレコーディングスタッフと一緒に仕事をすると、大変な事が起きる。
写真でわかりやすく説明しよう。

ほとんどのクラシックのホール録音のピアノとマイクの距離はこのくらいだ。
良い響きのホール録音では、腕の良いエンジニアは残響用のマイクは立てないで、メインのマイク2本のみ。しかもマイクの向いている延長線はピアノに直接向いていない。

この写真は某オーディオメーカー系のマイクアレンジ。
よく響くホールなのに、マイクはまるでスタジオ録音のようにピアノの中に突っ込んである。ステージの客席寄りに立っているマイクはアンビエンス用で、メインのマイクにこの残響をミックスしている。こうやってみると、どちらが演奏家にとって、より、自然な音でとれるかは一目了然である。
哀れ、このオーディオマニア的録音は、ピアニストがモニターを聞いてパニック!
まるでピアノの中に頭を突っ込んで聴いているような音だ(笑)
ダンパーが弦に落ちる、バサッバサッと言う音や、アクションから出るピアノ固有のノイズもバッチリ飛び込んで来る。
私は、こりゃ困ったわい、と、遂にピアノをもこもこにして緊急避難(笑)
クラシック音楽のわからないスタッフ達は、これがいかに演奏家にとってつらい事かが分からず、マイクは1ミリたりとも動かさない。
ピアニストは録音の経験もほとんど無いので、結局悩み続けて録音終了。
そしてやっぱりみんなでピアノのせいにした(笑)
私は「こんな連中とは二度と仕事しないよ(苦笑)」で済むけれど、サラリーマン調律師なら、悔しくてもじっと我慢するんだろうね・・。
ジャズやポップスならともかく、オーディオ的に録音されたらクラシックは弾けません。
ピアノにマイクを突っ込むならホールで録音する意味がありません。
クラシックは良い音で録るよりも、良い音楽を録ってほしいのが、演奏家の切なる願いでしょう。
クラシックは天井の吊りマイクで録ったライブ録音が、一番音楽的なニュアンスが聞こえたりします。
しかし、オーディオ的に言えばこんな音はピンボケの遠くでなっている音でしかありません。
大手のレコード会社では、クラシックファンも、オーディオファンもある程度満足させなければいけないし、各社の目指している音というも
のもあり、完全に演奏家寄りの録音というわけにはいかないけれど、その中で最高のものを目指しています。人間の耳には素晴らしいイコライザー機能が付いていて、S/Nの悪い客席で聞いても、その中から微妙なピアニシモの音までを選び出して聞くことができるけれど、マイクにはそんな事はできません(笑)
話は尽きませんが、結論として、今回の松本君は音楽家としてなかなか良い意見を言ってくれて、頼もしくもありがたくもあり、だ。
このビクターのクラシックレコーディングチームは、もちろん日本のトップレベルチームなので、いかようにもできるけど、先月の録音と同じCDの中で急に音質が変わるのもまずいので、今回の希望は諦めてもらった。

写真で見るように、先週の岡田さんのマイク位置も同じくらいだから、この辺が現在、響きの良いホールで録音するクラシックCDの標準的なマイク位置ということになる。
ある時は、こんなケースもあった。
若いエンジニアが、妙にピアノの近くにマイクを立てている。
アーティストはステージの上で気持ちよく演奏していたのに、案の定、モニターから再現される音のニュアンスの乏しさに愕然として、「これではピアニシモとフォルテシモを大袈裟に差をつけなければ、ダイナミクスも表現できないから、何とかならないですか?」と言ったら、若いエンジニアは
「後日、編集マスタリング時に調整しますから・・」とのうのうと言って逃げた。
「そんな事を想像しながら演奏なんかできないから、今この場でマイクの位置を変えて!」と言っても、所詮センスのないエンジニアには何を言っても無駄。
巧いクラシックの演奏家にとって、鍵盤を押して出した音を、ホールの残響に乗せて、遠く客席にまで飛んで行く間の距離感が、とても重要で、その空間に立体的な情景を描く作業をしているのだと思えばわかりやすいかも知れない。
いやはや、レコーディングは奥が深いのですよ(笑)
さてさて、松本君、今日は絶好調で、予定より大幅に早い時間に収録完了!
この若き才能あふれるピアニストのCDは、全音楽譜出版とタイアップして、日本ビクターより7月発売予定。(後期ロマン派上下巻楽譜も発売)
年度末の忙しいスケジュールもやっと終わり、いつも通りの日々が戻ってきました。
今日は、市川市文化会館でジェラール・プーレ氏のヴァイオリンコンサートがありました。

社長は秩父でレコーディングの為、今日は私の担当です。
プーレ氏のお父様はガストン・プーレでドビュッシーのソナタをドビュッシーの伴奏で初演された方。
プーレ氏自身も幼いうちからその才能を認められた方です。
今日の演奏会はソナタ中心のプログラムで、バッハ、ラヴェル、フランク等。
お客様はプーレ氏の演奏に引き込まれ、アンコール後、客席のライトが点いてからも拍手が鳴りやみませんでした。
プーレ氏はこのホールの響きが大変気に入ったようでした。
昨年、弊社NYSレーベルからリリースしたCD「ドビュッシー・プーランク・フランク~ジェラール・プーレ フランス三大ヴァイオリン・ソナタを弾く」のなかでも、フランクのヴァイオリン・ソナタは、昨年このホールで録音したものなのです。
ということで、録音記念のコンサートでもあり、終演後にはCDをお買い求めになるお客様が長蛇の列でした。
《フランスの至宝》と称されるプーレ氏が、ご自身の代表作として渾身の演奏をなさった「ドビュッシー、プーランク、フランク」。
Shoppingでも取り扱っていますので、是非お聞きになってみて下さい!
(N)

今日と明日は、先月に引き続き、松本和将君の 後期ロマン派楽曲レコーディングの後編だ。
残りの13曲を2日間で録音する。
前回と同じピアノを持ち込んで、前回と同じ位置に設置。
調律を終えて、サウンドチェック。何もかも前回と同じなのに、何故か音は微妙に違う。
これが私をいつも悩ませてきた、秩父の怪(笑)。
原因は空気が違うのだ。山の上に建てられた、この音楽堂は薄い壁一枚だ。
おまけに客席両サイドには上部に窓があり、日が射し込んで外気の変化がまともにホール内に侵入する。
録音中は必ずエアコンを切るので、朝昼晩の温度湿度が、まるで体育館のように急変する。
従って、ここでのレコーディングにはこの温湿度記録計が必需品だ。

先月からの録音で二枚組のCDを作るため、あまり音色が変わってもよろしくないので、マイクやピアノの位置をミリ単位で修正しながら、プレイバックの音に現れる前回の録音との季節差を修正。
それにしても、収録曲がことごとく違う作曲家の作品を集めたアルバムは的を絞れないので難しい。
今回は後記ロマン派の後編なので、バラキレフやブラームスなどの大曲が並ぶ。
前回より更に臨機応変な調整が必要になると予測。
サウンドチェック中に、松本君が「もっとマイクをピアノから話して、客席で聴いているように録音して欲しい」と要求しだした。
もちろん、前回とあまりに違う音色にするわけにはいかないので、それは却下されたけれど、レコーディングの最大の矛盾点を突く、重要な意見だ。
我々もいつも悩んでいる、正解のない悩みをズバリ言ってくれたので、松本君、若いのになかなかこりゃ大物だ(笑)
この話は長くなるので続きは明日。
今夜は8時頃までたっぷりやって、夜はホテル近くのフランス料理店でハンバーグのコース秩父ワインでとりあえずは打ち上げ。
先週、レコーディングで一緒だったエンジニアの岡田さんに仕事で呼ばれて、和歌山県の古座川に行ってました。
岡田さんは先週のレコーディングの翌日が日曜日だったので、早速高速道路千円均一の恩恵で、古座川までの700キロを千数百円で帰ってきたらしい。
我々は残念ながら、平日だったので定価の一万数千円だった(泣)。
岡田さん達とは長い付き合いで、レコーディングで数多くのピアニストを泣かしたりなど武勇伝は数知れず(笑)
そんなマル秘オフレコ話は別の機会にするとして、今日はお腹の話。
古座川に来ると、いつも歓待してくれて、昼に市場に上がったカツオや、前の山で捕れた猪や鹿肉料理を振る舞ってくれる。
ビールやワインは飲み放題で、夜は近所の人を招いて毎晩呑めや唄えの大宴会。
岡田さんは最近でこそ、年のせいで酒量も減り痩せて来たけど、何しろアナログ・レコード時代からチーフエンジニアとして活躍していた強者なので
「3分(当時のシングル盤は片面一曲3分)のプレイバックの間にカツ丼を食べなきゃ先輩に怒られた業界だぁ!」
と、食事の時にはいつも言う(笑)
40代で既に肝臓を壊し、完璧メタボ。
始めて岡田さんと出会った頃、出張録音で良く、一緒に露天風呂に入った。
酔っ払ってタオル片手にウロウロ裸で歩き廻る岡田さんのお腹は絵に書いたような太鼓腹(笑)
いつもそれを見ながら、どうやったらあんな腹になるんだろ…?
あ~なるまでに、自制が利かなかったんだろうか…?
といつも思っていたけど、いつの間にやら自分もその頃の岡田さんの年になって、簡単にそんなお腹になった。
本当にいとも簡単に、何の努力もいらなかった(笑)
今日は写真は無し!
すっかり暖かくなって、桜も満開。
今日は、ワインマニアの友人が院長をやっている総合病院で、定期検診です。
うまいワインを一緒に呑めるように、私の肝臓は定期的にチェックされています。
いつも、スタインウェイは保守点検 していますが、今日はされる番ですね(笑)
昨日、レコーディングが終わった江口君は慌ただしくニューヨークに帰って行ったけど、飛行機大丈夫だったかなあ…
今回の来日は成田空港の貨物機事故、成田閉鎖から始まって、テポドンで帰るという、ついてないと云うかついてると云うか…大変な旅でしたね(笑)
十年前のテポドンの時、私は仕事でパリから、モナコに着いた2日目でした。
ホテルでニュースを見ていたら、第一報が「北朝鮮が日本にミサイルを打ち込んだ!」と言ってるように見えたので、
こりゃ帰れないかもなあ…と心配したものです。
その後、今回と同じようにミサイルは日本を飛び越したという事がわかったけど、
こんな時ヨーロッパやアメリカにいると、日本って本当に極東の遠い国だと言うことを実感する。
とにもかくにも無事で何より。
今日の検査で私の肝臓も無事だったみたいなので、また旨いワインを飲みましょう(笑)
日記らしい日記だね。
昨夜、ショパン連続演奏会出演の為、ローズウッドは渋谷に帰って行ったので、相模湖レコーディング最終日は、ホンキートンクのピアノで弾くラグタイムなどを録音する。
何しろホンキートンクの曲を、コンサートホールでフルコンで録音しても、豪華になりすぎて全く雰囲気が出ない。
もっと安っぽく、軽くなければ本物じゃない。と云うわけで、わざわざアップライトを持ち込んだ。
いくら音を狂わせると言っても国産ピアノではダメで、ニューヨークスタインウェイのアップライトを使用。これを素材に当時の雰囲気を再現。

プレイバックを聴きながら「調律が綺麗すぎるからもっと狂わせて安っぽく」とか、「タッチをもっとバラバラに」とか、忙しい忙しい(笑)
演奏はもっと下手に弾こうとか、みんな真面目に崩す事に取り組む(笑)
わざわざノイズを入れてみたり、鍵盤の深さをバラバラにして、和音が揃わないようにして、かなり疲れたピアノを再現。
小型とは言っても、アップライトは、響板の面積が意外と広く、セミコンのB型に近い面積があるので、気を付けないと中域から次高音域にかけては音量が出過ぎる。
調律の狂い方も揃っていてはダメなので結構大変(笑)
酒場のグラスがカチャカチャ言う音や話し声などの雑音が入ればもっと最高。
おかげでかなり雰囲気が出てきた。大笑いしながらの楽しい録音だ(笑)
3時には無事終了し、江口君を乗せて、我々だけお先に失礼!
私は渋谷に戻って、ショパン・プロジェクトだ。
サロンでは昨日まで相模湖で活躍したローズウッド君が待っていた。
2日間レコーディングに使っていて楽器は仕上がっているから、粒を揃える位で大丈夫。
今日は満員御礼。
しかも中井さん、何と全曲暗譜!
演奏会の最初に、小坂さんの挨拶のあとで私がピアノの説明をする事になったらしく、3分間喋る。
もしショパンが長生きしていたら77歳頃の楽器だから、このショパンプロジェクトには欠かせないピアノなのだと、ついつい話が長くなる。
本番は中井さんの素晴らしい演奏と小坂さんの分かりやすい解説で、お客さんも大満足の演奏会だった。

連続演奏会も2回目にして、馴染みの曲が次々出てくる。
今回は遂に作品10のエチュードも登場!
なるほど、この曲はこの頃作曲したのか…勉強になるなあ、面白い企画だ!
昨夜の最後の録音は、アメリカ国歌のホロヴィッツ編とホフマン編だった。
この2曲を並べて弾いてみると、実に面白い。
ホロヴィッツ編曲バージョンは、いかにも彼らしい華麗な和音構成でできていて迫力満点だ。
ホフマン編曲バージョンは、音数も圧倒的に少なくて調も違うし、何だか弱そうなアメリカのイメージだ(笑)ホフマンはとっても上手いピアニストだったけど、、この曲に関しては余り興味がなかったのかな?
さて昨夜はホテルのレストランで遅い夕食をとり、早々とベットに入ったけど、なかなか寝つけず、朝風呂に入って寝不足の頭に活!快晴の相模湖はすがすがしい。
朝9時にホール入りで調律。ローズウッド君のご機嫌もよろしいようで、収録曲をモニターで聴いているとホフマンやラフマニノフのSP盤のピアノと同じ音がする。
昔こういった巨匠達のSP盤の音を聴いた時は、時々入るジィ~ンというノイズや、妙にユニズンが狂ったようなピアノの音は何なんだ?と思っていたけれど、ローズウッド君を手に入れて、やっとわかった。
写真は最も特徴的な駒のピン配置。

中音域のみに採用された独特な方式により、ユニズンの弦長が違うので、ピアニシモとフォルテの時に、唸り方が違う。効果のない低音域と高音域には用いられていないので、明らかに音楽的に必要だった訳だ。勉強になるね(笑)
さて録音も進み「BATTLE CRY OF FREEDOM」という曲になってびっくり!
始まりは童謡「春がきた」と同じメロディーだ。
そのうち「そよ風も~ほら囁くよ~初恋によ~ろしくぅ~♪」確かこんな歌詞だった森田健作?の曲になって、だんだんピアニスターHIROSHI風の変奏曲になって、最後はヴォロドス顔負けの超絶技巧で終わる(笑)
誰がパクったか?はたまた偶然か(笑)
エンディングの最高音部はニューヨークスタインウェイならではのクリスタルトーンのスーパーブリリアントが圧巻。
他のピアノだとこの音域は必ず痩せてしまうので、近代ピアノといえども、この1887年の楽器に明らかに見劣りする。
ピアノという楽器は必ずしも進歩しているとは思えない。必聴だね。いやはや楽しい録音だ(笑)
夜になって、スタッフがローズウッド君を搬出にやってきた。
いつまでもレコーディングやっていたいけど仕方がない。
明日はアップライトでホンキートンクの録音に入る。今夜は打ち上げ。
今日から3日間、待望の江口 玲ソロアルバムをレコーディングする。
ガーシュウィンや無名の黒人作曲家の作品を集めた、オールアメリカンプログラム。
1860~1910年頃の作品が中心なので、当然使用ピアノは、その時代真っ只中、1887年生まれのローズウッド。

ホロヴィッツがホワイトハウスで弾いたアメリカ国歌(ホロヴィッツ編曲版)も収録。
これまたホロヴィッツが愛したこのピアノならではの選曲!
何しろ凝り性の我々NYSレーベルの制作なので、ガーシュウィンのラグタイム用にニューヨークスタインウェイのアップライトも持ち込んで、本当にホンキートンクに調律を狂わせて録音する(笑)
まさに当時のアメリカを再現するわけだ。
昨今では経費節減の為、兼業化が進む中、こちらはスタッフも豪華に、レコーディングエンジニアに元DENONチーフエンジニアの岡田則男を始め、オペレーター、ディレクター、調律師という良き時代の完全分業体制で手抜き無し!

はあ~予算はいくらかかるのでしょう(笑)
いやいや、楽しい事を極めれば、お金はかかるんですよ!
てな訳で、空気の良い相模湖交流ホールにこもって、楽しいレコーディングいよいよ始まり始まり!