
今日は深沢でのレコーディング最終日。
今週はずっとこのレコーディングが続いてたけど、今日が最終日。
恐らく朝までかかると思います(笑)
今朝も調律に入って、昼御飯の注文を納豆刺身定食にしようと思ったら、お店が定休日との事なので、初日に食べた「鯖味噌定食」を頼みました。

この録音は、バレエレッスンで使用するCD制作で、もう何度も参加しているシリーズです。
とりあえず今日も順調に録音は進んでいるけど、15年前ほど前にやった第1回目を思い出します。
今はなき東雲のIRC2スタジオに今回と同じF1を持ち込んで、ジャズピアニストの福田さんが担当。
ビートルズの楽曲をアレンジした曲をピアノで弾いて、それをバレリーナが踊ってみて、踊りやすいかチェックをして修正する、の繰り返し。
ピアニストは楽譜とバレリーナを見つつ、耳にはイヤフォンでリズムを刻むメトロノームの音を聞きながら、正確に弾かなきゃならないのでとても難しい(笑)
最終日は朝までかかって、結局一睡もしないで成田から午前中の便でニューヨークに飛んだのでよく覚えています(笑)
毎回このレコーディングは最終日は朝までと覚悟しています。
しかし今夜は、新宿の朝日カルチャーで開催される講演会でレクチャーするので、レコーディングの後半はスタッフと交代。
さて18時に新宿の住友生命ビルに到着。
あの3月11日の大震災の10日後ぐらいにやった講演会以来。
あの時は節電でビルの中は薄暗くて異様な雰囲気だったけど、今日は明るいね!
今回は長富彩ちやんとホロヴィッツのピアノについて語るがテーマ。
ホロヴィッツピアノCD75の音源と会場のピアノで同じ曲を弾いて聴き比べたり、巨匠時代のピアノと今のピアノの違いなどを「今ショパ」の内容に沿って解説する事がメイン。
75人も入って完売御礼の中、大盛況で終わりました。


サイン会では大勢のお客さんが並んで下さいました!
「目から鱗でした!」
「私たちに何か出来ることはありますか!」
「モヤモヤが晴れました!」
等々嬉しいお言葉頂きました(笑)
いまだに「今ショパ」は注目を集めています。
ホロヴィッツのピアノの秘密を解明し、そこから遡ってベートーヴェンやロマン派の初期まで主流だったフォルテピアノを見ると、ピアノの進化の歴史が非常によくわかるのですが、日本の誰もそれを知らなかったわけです。
この巨匠時代のスタインウェイまでは、音楽家がメーカーにアドバイスをしてピアノを開発していた時代。
そして戦後はメーカーが主導でピアノ作り始めた時代。
つまり巨匠時代は音楽家の求める楽器を作っていたけど、戦後は巨匠がいなくなり、メーカーが主導で作り始めたら、売れるピアノを作ろうとするのはビジネスの世界では当たり前。
こんな事を誰も指摘しないで来たので、今のクラシックがつまらなくなってしまったのです。
クラシックはサロンや小ホールでじっくり聴く原点のスタイルに戻りましょう!で締め。
ホントに「今ショパ」は想定通りの反響でしたね。
今日の講座にいらして頂いた皆様ありがとうございました!
今日も朝からスタジオに籠ってます。
深沢の住宅街の真ん中で駅から歩ける距離ではないし、交通手段もせいぜいバスだから通いは当然車。
近くにレストランもないので、食事はお取り寄せ弁当。
しかしこれが豪華!
交代したスタッフから「食事とケータリングは豪華ですから必ず肥りますよ!」と言われていたけど、なるほどだね(笑)
朝11時にスタジオに入ったら、お取り寄せ弁当のメニューから好きなものを決め、調律が終わった頃に届いた弁当を食べる。
お気に入りは納豆、刺身定食!

普通は弁当屋さんには見かけない組み合わせ(笑)これが旨い!
パックの納豆に卵の黄身とネギが入っていて、混ぜるのは自分。
刺身はなんと中とろ!
食べ終わった頃に皆やって来て録音開始。
テーブルにはフルーツの盛り合わせ、有名店のどら焼やクロワッサン、いなり寿司などが並んでいる。
夕方になるとまたメニューが出てきて、今日は焼き肉弁当。
といっても何と叙々苑のお持ち帰り焼き肉弁当!
夜11時頃まで食べ続ける(笑)
これが毎日続くとホントにヤバい(笑)
こちらのレコーディングは既に4日目に突入していますが、ずっとスタッフが交代で張り付いていたので、私は今日が初めて。
この録音は毎年やっています。
プロデューサーの高橋さんはニューヨークのスタインウェイにしか興味がないとの事で、毎回フルコンを運べる録音スタジオを探して来ます。
スタジオにあるピアノには全く興味を示しません。
ありがたい事ですが、このバレエのレッスンCDの録音は毎回過酷を極め、ピアニストもピアノもスタッフも忍耐勝負です(笑)
縦のリズム感が最も重要なので、まずクラシックのピアニストには弾けません。

それにしても今回の録音スタジオは世田谷の深沢にあって、もともとはあるギタリストのプライベートスタジオだったらしいのですが、まるでアビーロードスタジオのように住宅街にひっそりある穴場です。

ピアノは運べるし、渋谷から近いし、これから使わせていただきましょう(笑)
過酷な録音は今日も夜11時まで続きました。
調律師は朝誰よりも早く来て、最後までいる過酷な仕事ですねぇ…
皆がレコーディングしている間、私の今日の担当は東京文化会館。
バンドネオンの三浦一馬、ピアノは松本和将。

この東京文化の小ホールは小さく見えても700席近くあって、紀尾井並みに大きいから席を埋めるのは大変なんだけど、今日は良く入ったね!
このホールでバンドネオンは初めて聴いたけど思ったより音量が大きくてびっくり!
ピアノが負ける(笑)

仕方なく20分時間を頂いてピアノをパワーアップ。
これぞお得意のスーパーブリリアント(笑)
みんな大喜びで、本番。
やれやれ、持ち込みだから出来る「土壇場でピアノの性格を変える技」。
アーティストとお客さんに喜んでもらうのが裏方の仕事だからねぇ。
久しぶりの秩父は懐かしい。
昼には皆でマジョラムのカレーを食べに行きました(笑)
この秩父に初めて来たのは、もう20年以上前の事。
知った顔もみな歳をとり、年月の経過を物語る。
わが社のコンサート部が始まったのもこの秩父。
杵淵直知さんの別荘があるのも偶然この秩父。
今は直接このホールとも関係なくなってしまったけれと、なんか戻ってきたって気がするね。
このホールから始まったスタインウェイ戦争だからね(笑)


さぁ録音は明日まであるけど、私は明日の仕事の為にスタッフと交代。
こちらが秩父を出る頃に、スタッフは渋谷を出てくる予定。
このところレコーディングがやたら重なります。
今日は秩父でコロムビアと、クラシックサックスの録音。

世田谷のレコーディングスタジオでは、1週間かけてバレエ音楽の録音も今日から始まります。
私は秩父担当にしました。
珍しいクラシックサックスは曲も少ないし、これからのジャンルだね。
いろんな新しい試みは新鮮で面白いね。
今回から録音にはこの椅子を使うことにしました。

いつものジャンセンやバルツの椅子は、新品でもすぐにガタが出て、録音ではノイズで頭を悩ませる。
イタリア製のこの椅子は部品点数の少なさとネジの部分がないので、体を揺らしてもほぼ無音の優れもの。
ピアノ以外は新しいものをすぐに取り入れる頭の柔らかさ(笑)
あとは耐久性のチェックだけ。
「今ショパ」でもお馴染みになった期待の新人ピアニスト反田恭平君が、松濤サロンデビューです。

弱冠18歳にして他とは違う何かが光る逸材。
9月2日にはロシアでの留学に旅立つので、壮行会も兼ねて「反田恭平CD75を弾く」を企画しました。
75席があっというまに完売!
そりゃあタカギクラヴィアが選んだアーティストですからねぇ、上手いのレベルが違いますよ(笑)
今回もマスコミが来てくれていたので、彼の認知度もこれからぐっと上がるでしょうね。
こういった才能ある若者を世に送り出すのも私の役目ですから、まぁいつか聴いてあげてください。
「このピアノで弾くんだから、ホロヴィッツの星条旗か、トルコマーチのヴォロドス版みたいな曲を1曲、レパートリーで持ってると良いよ」って言ったら、早速トルコ行進曲ヴォロドス版を披露してくれました。
もちろん1週間も練習した訳ではなく、なんとか譜読みが終わった位だけど、弾いてしまう度胸は大したもの。
やっぱり「朝から晩まで一年中練習しました」ってコンサートより、こういった才能のある人のさらっと弾く音楽のほうが私は聴きたい(笑)
ロシアに行っても変な癖をつけられないで、このままのスタイルで自分の才能を更に延ばしてもらいたいですね。
ちょっとやんちゃな感じが私の10代の頃みたいで、なにか憎めない(笑)
では帰って来る日を楽しみにしてるよ!
ウォッカと女の子には気を付けてね(笑)!
今日の入り時間は朝7時!
既に大勢のスタッフさん達が既に来ていました。

一昨日と同じ、佐渡裕ウインドオーケストラと平原綾香、松崎しげる、ピアノは松永貴志君。
今日のテレビ収録は2週分とるので収録自体は16時頃までかかるけど、テレビは時間が比較的ぴったりに終わるので楽。
久しぶりに平原ファミリーと会ったので長話。
お父さんとは甲府の先の白根桃源ホールで昔、レコーディングをしてからのお付き合い。
徳島に行ったりしましたね~、その頃はまだ子供だった綾香ちゃんも今や貫禄!(笑)よかったね!
これで長かった河口湖滞在も終わって帰ります。
しかし河口湖は良いなぁ…早く工場を河口湖に移して富士山見ながらピアノを直して、気分転換に車も直して峠道をかっ飛ばし、温泉入って暮らしたいなぁ…(笑)
今日のスケジュールは昼に調律に入るだけで、その後はリハーサルだから特にやることはなかったんだけど、ともかく河口湖へ向かう。
明日の「題名のない音楽会」の収録の準備で、凄い機材と大勢のスタッフさん達がマイクチェックやらテレビカメラの調整やらで忙しく走り回っている。
そろそろ調律の時間なんだけど、タイミングが計れず遠慮して待つ。
テレビ収録は外部の制作会社なので、知らない人ばかりだ。
ようやく知った顔の人を発見したので「調律はまだできないよね…」と聞いてみた。
「ちょっと聞いて来ます!」と舞台へ。
やがて申し訳なさそうに「あの~今日は調律無しだそうです…」
え~早く言ってよお~(笑)
連絡ミスだ。
それならホテルで寝てたのにぃ~とぼやきながら甲府に戻りつつ、「まだ昼過ぎだなぁ、よし、せっかく河口湖だから富士五湖巡りしよう!」てなわけで急遽左にハンドルを切って西湖へ。


そして精進湖、本栖湖、山中湖を巡って甲府に戻る途中でコウモリ洞窟を探検。

ヘルメット被せられて涼しい洞窟の中へ。
途中から急に狭くなり、ほとんど「く」の字で頭をぶつけながら進む。
なるほどヘルメット必要な訳だ。
残念ながら昼間はコウモリは寝ていて出てこないから見られなかったけど、これは神秘!
ドライブを終えて甲府に戻って、ほったらかし温泉の手前のぷくぷくの湯に入る。

これも去年コロムビアのレコーディングの時に行きましたね。
ほったらかし温泉は建物はほったらかしだけどお湯は良い。ぷくぷくはお湯は普通だけど建物は綺麗。
どちらも今や秘湯とは言えず大混雑。
今日は遊んだなぁ…突然の夏休みだぁ!
昨夜はビールを我慢し、途中のスーパーでワインと果物を買ってホテルで爆睡。
今日は朝7時30分河口湖入りで、佐渡裕ウインドオーケストラ+山下洋輔。


山下さんとは先月の日比谷の野音以来ですね。
この音楽祭の間、ずーっと張り付いている実行委員や裏方スタッフさんたちは、楽屋口裏のテントで賄いの自炊生活。

楽器も安定してるし調律の直しもないので、途中まで見届けてお先に甲府の宿まで帰ります!
しかし今年は暑いね~!
甲府も河口湖も蒸し風呂状態だけど夜は涼しい。
富士山も夏に見るとただの黒い山。

今日はこの暑さでピアノが心配だから河口湖まで見に来て、帰りに昨年も行った甲府のほったらかし温泉へ。

さすがにこのくそ暑い夏の午後は、お客さんも空いてた(笑)
この暑さじゃ温泉もなぁ…って思ったけど、露天風呂はぬるめの設定にしてあって風が気持ちよい、やあ~極楽極楽。
湯上がりにビールでも飲みたいけど、運転しなきゃ帰れないからなぁ。
スタッフ連れてくればよかった(笑)


昨年に引き続き、今年もこのホールでT井君のリサイタル。
昨年は一公演だけだったけど、今年は1日おきにコンサートが入れ替わり、20日の[題名のない音楽会]の収録まで続きます。
このお盆休みの帰省ラッシュ、魔の中央道を車で通う気にもならず、腹をくくって16~20日まで河口湖に滞在する事にしました。
いつもはスタッフを連れて行くのだけど、スタッフも仕事が一杯なので、私が一人で担当する事にしました。
おりからの富士山世界遺産決定ブームとあいまって、宿は全て満室。
やむなく一時間走って甲府のルートインを確保。
今日は午前中にピアノを搬入して調律、夕方からT井君のリハーサル。
本番は、なんとキャパ3000人のステラホールが満員になるんだね!
さすがにT井君の人気はいまだに凄い。
このホールは上部が空いているのでPA無しで大丈夫か?と思ったけど、良く鳴っていたからひと安心。
後半が始まってから、私はお先に甲府の宿まで帰ることにしました。
この3000人のお客さんが一斉に帰る渋滞にはまりたくないもんね(笑)
明日は特にやることないけど、ピアノの様子は見に来ます。
楽しいね!
昨日はドビュッシーとリスト。今日はファリャの録音。
ピアニストは伊藤綾子。
彼女がフランスで見つけたこのピアノは、6年前に日本に持ち帰って来て今回が初めてのレコーディング。



1877年製造のこのエラールは、6年後にニューヨークで発表されたスタインウェイニュースケールDの設計に、多くの影響を与えている。
元々スタインウェイはエラールを熱心に研究していたので、このニュースケールDの代表、わが社のローズウッドスタインウェイを見るとその影響が一目瞭然!
エラール無くしてスタインウェイは天下を取れなかったに違いない。
ローズウッドスタインウェイを、かのホロヴィッツがこよなく愛した理由も良くわかる。
そして1912年のCD75までこの特性は続くので、クラシック音楽がピアノに何を求めてきたのかがよくわかる。
この20世紀前半のアメリカの巨匠時代のピアノまでなら、恐らくリストは喜んで弾いたと思うけど、ショパンは弾かなかっただろうね。
そして最近のピアノはリストも弾かないだろうね(笑)
歴史の生き証人達のピアノは、全てを教えてくれるから面白い。
このエラールは10月から12月までブリジストン美術館に展示されるから見に来てください!
その為に今回の修理調整は新しい部品を一切使用せず調整だけで済ませたので、大変だった。
部品の経年劣化による多少のノイズには目をつぶったのは「ノイズは出汁…」ってわけでもないけど、美術館に展示するのにビカビカの部品が入ってたらなんだかねぇ(笑)というのもあり。
展示が終わったらまた渋谷に戻ってくるので、来年から松濤サロンでエラールのコンサートもはじめます。
その時までには消耗部品は交換します。
これからこのエラールは有名になるね。楽しみです。
いよいよ今日と明日は、1877年製のエラールでレコーディングをやります。
このエラールは半月前に我がメンテナンスルームに運び、この日の為に調整を仕上げてきました。

10年ほど前、本体はベルギーで、アクションはフランスで修復されて、日本に持ち帰られた楽器。
こういうヴィンテージの楽器は修復家の知識と腕とセンスによって、その後の寿命は大きく変わります。
基本的に私は日本で修復された楽器は信用しません。
見よう見まねで呆れるような修理や改造を施された楽器が多いからです。
スタインウェイのように、フレームをケースに納める時のボルトのトルクが厳密に決められている事も知らずに、不用意にフレームを外し、響板を塗り替え、フレームを再度組みつける時に、思い切りボルトを締めてしまった個体を数多く見ます。
無理に歪んだフレームによって、数年後に音を立てて崩れた哀れなスタインウェイがわが社にもあります。
残念ながら御臨終です。
見た目ばかり綺麗になっても、危険すら伴うピアノのオーバーホール。
その他にも、部品が手に入らないからと汎用の部品でオーバーホールされるのは、ちょっと困りもの。
汎用の部品を加工して取り付けるのは良いとしても、汎用の部品の為に本体を改造してしまった修理も多い。
こんな個体が修理に入ってくると、オリジナルのサイズや位置を探るのに一苦労だし、こういった楽器は不健康。
その点このエラールはとても健康な楽器で、オーバーホールも楽しい作業でした。
オリジナル度合いをほとんど損なっていなかったので、ベルギーとフランス人の修復家のセンスの良さがわかります。
調整が終わったら、当時のエラールはこんな音で鳴っていたであろう事が良くわかりました。
エラールは低音弦が銅線ではなく真鍮線巻きだったので、フランスからスペアも含めて2台分取り寄せたから当分大丈夫。
まあどうしようもなきゃ、わが社の巻き線機で銅線の代わりに真鍮線を巻けば良いことですが。
多くのエラールはベース弦を銅線巻きに変えられてるけれど、この辺はこだわって欲しいよね。

エラールといえば最後までこだわったのは、平行弦とダブルエスケープメントアクションと下から押し上げて止めるダンパー。
平行弦は有名だけと、ダンパーに関しては、ほとんどの人があまり感心を示さない。
しかし音楽的には重要な意味を持っています。
エラールはなぜ複雑なユニット構造を持つ、アンダーダンパーにこだわったのか…?
チェンバロですらダンパーは上から止めるのだから、下から止めるダンパーは古いのではなく、むしろ当時は新しいシステム。
下から弦を押さえる為に必然的にほとんどのダンパーがウェッジではなく平ダンパーになる。
低音弦は振動エネルギーが多いので平ダンパーでは振動を止めきれない。
つまりスパッと音は止まらないのだ。
今のピアノでは大騒ぎだけど、ロマン派までの音楽はこれで良い、いやむしろこうでなければのらないのです。
ホロヴィッツのピアノはまさにこれ。クラシック音楽はダンパーがスパッと音を止めてはいけないのです。
それを知っている欧米の先生は、現代のピアノで弾くときに、ダンパーをハーフペダルにしてこの効果を出そうと苦心している。
今日はドビュッシーの録音。
この余韻の残るエラールで聴くドビュッシーはフランスのエスプリ。贅沢(笑)

発売からもう2か月を迎えようとしていますが、未だに人気は衰えず嬉しく思っています。
そろそろ裏話を書いても良いかな…(笑)
まずはタイトルから。
このいささかショッキングなタイトルが決まったのは、もう発売日も決まり、帯の校了寸前の事でした。
編集長のAさんより「そろそろタイトルを決めてください」と催促が来たのですが、私には良いアイデアがありませんでした。
1作目の「スタインウェイ戦争」も、2作目の「調律師至高の音を作る」も、実は版元のアイデアです。
他の著者はどうなのかわかりませんが、私はいつも中身よりタイトルを考えるほうが難しいのです。
しびれを切らした編集長が「『今のピアノでショパンは弾けない』ではどうですか?」と言ってきました。
実はこのタイトルに最も反対したのは、私なのです。
締切ギリギリまで悩みましたが、ある時ハッと気が付きました。
音楽関係ではない出版社から出す本で、最初に言われたことが「一般の人にわかりやすいピアノの本、それも高木さんでないと書けない本を書いてください」でした。
「今のピアノでショパンは弾けない」というタイトルに、「え!?」と思ったことこそ、「それはあなたが音楽関係者だからです」と言われたような気がしたのです。
クラシック音楽をあまり知らない編集長が、一般人の目線で原稿を読んで「へ~!」と思って、すぐに浮かんだタイトルが「今ショパ」だったのですから、我々クラシック音楽に携わる人間と一般の人のクラシック音楽に対する認識がこれほどかけ離れてしまっていたことに気が付いたのです。
「ベートーヴェンやモーツァルトの時代のピアノと、現代のピアノはこんなに違っていた!」という内容だと思って読み進むと、ある程度音楽的知識のある人は「そんな事知ってるよ!何をいまさら…」と思うかもしれません。
ところがどっこい、「スタインウェイ戦争」「調律師至高の音を作る」に続く3冊目の本ですから、「昔のピアノはこんなに違ってたんですよ~」なんて、誰でも書けるつまらないことを書くわけありません(笑)
この本には何ヶ所かキーワードを混ぜてあります。
クラシック初心者の一般の人にも「へ~」と読めて、なおかつ超一流のピアニストや恐らく日本に10人といないであろう本当に実力のあるコンサート調律師が読んだら、「なるほど!」あるいは「今まで悩んでいたポイントが点が線になってつながった!」と理解できるはずなのです。
たまに古楽器のコンサートを聴きに行ったり、本やCDからの情報だけではこの答えは見えてきません。
答えはホロヴィッツピアノ《CD75》の中に隠れています。
このピアノから約90年さかのぼって、ベートーヴェン時代のフォルテピアノまでを研究して初めて、答えが明快にわかるのです。
巷によくある、文献や楽器博物館の古楽器を見ただけで書いた本とは根本的に違うのです。
この辺りは自信作です(笑)
そして最も大きなポイントですが、このタイトルでいう「今のピアノ」とはここ10年くらいのピアノの話で、特に最近5年くらいのピアノでは、もうクラシックは弾けません(笑)
8月9日は、昨年に引き続きこの白寿ホールで樋口さんのリサイタルです。

白寿ホール、馴染みのロビーからワイヤーで7階まで吊り上げ。


今夜も業界の重鎮が大勢集まって盛況でした。

そのためかどうか、このホール特有のリクライニング装置を稼働。
初めて見たけど、わざわざその為にヘッドレストを手分けして取り付けるんだね!
コンサート終わってまたまた吊り下げて搬出、怖いね(笑)


毎回お馴染みのスタジオで、先日の男性四人組の歌の録音。
立ち会いの待ち時間は暇なので筆が進むから、今年は原稿のほとんどをレコーディングの待ち時間に書きました。
今日は日記の更新やFacebookをシコシコ書いてます(笑)
音楽を聞きながらだと結構良い文章書けるんですよ。
無音でも駄目だし、ラジオやテレビが鳴ってるのもダメなんです。
毎年恒例となった市川市芳澤ガーデン美術館のジャズコンサートシリーズ。

今年は3年ぶりに国府さんに来てもらいました。
わずか1週間でチケット完売という人気。

この美術館にはピアノがないので、毎回タカギクラヴィアが運んでいます。
しかし軽妙なトークと演奏で聴衆を惹き付ける彼女の魅力は固定ファンも多いし、プロだねぇ。
ベテランの域に達して来たから貫禄もさすが!
忘れちゃいけないのはフグちゃんの愛称で業界で有名なマネージャーが素晴らしい。
ホントに理想的なコンビ!
今年は月日が経つのが特に早くない?
「今ショパ」に時間を取られてたからかなぁ…。まぁ充実してるって良いことだね(笑)
昨日、我がメンテルームに入ってきた1877年製エラール。

オリジナルを良く保っていて調整が楽しみ。
「今ショパ」に書いた通り、フォルテピアノを駆逐したエラールの特許ダブルエスケープメント。

当初はこんな複雑な構造は耐久性にかけると他社から疑問視されたけれど、高品質な材料の採用と高度な加工精度により、耐久性はむしろ向上。
なにより鍵盤を完全に戻さなくても連打ができるので、素早いトリルが可能になった。
サイドバルブの単気筒エンジン全盛の時代にいきなり4気筒ツインカムエンジンを送り込んだようなもの。
あまりにも画期的だったため、平行弦システムと共に20世紀に入ってもこのシステムを貫き通したので、やがて後発メーカーであるスタインウェイ社に駆逐される事になるんだけど、このエラールのダブルエスケープメントアクションはその後のピアノアクションのスタンダードになるんだから、大発明だね。
下から押し上げて止めるダンパーも、タッチがスプリングを押す感じが不自然だけど、自重で止める今の方式より音楽的。
このエラールは1877年製、この6年後の設計になるスタインウェイのNew scale Dはもうほとんど今のピアノと同じ。
開発競争の激しさを物語るね。
今月中頃からこのエラールでレコーディングをやります。その為に今日からオーバーホール開始。楽しみ!