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CD199物語                               12/28

今年もあと3日。
昨日で今年最後のレコーディングは終わりましたが、大晦日~元旦までコンサートの仕事は続きます。
その合間を縫って、今日はCD199の調整。
1921年末生まれ、製造番号209969のニューヨークスタインウェイは、今から5年位前に、アメリカの某有名大学の古い体育館に朽ち果てて眠っていました。
フレームの製造番号は消されていたけれど、口棒を外したらアクションフレームと棚板にはっきり製造番号の刻印が残っていて両者は符合する。
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これはスタインウェイのコンサート部貸し出し専用楽器CDの可能性あり。
ピアノの下に潜って響鳴板の状態をチェックしていたら、何かで引っ掻いたような文字。
なんと手書きでCD199と書いてあった!
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これが発見した時の状況です。
ホロヴィッツピアノCD75のように、ステージから去っても手厚く保護されていた楽器もあれば、第2のオーナーによってやがて学校のようなところに寄付されたような場合、長い年月のうちにその価値を忘れ去られ廃棄処分寸前で発見する事もあります。
古い壊れたヴァイオリンを捨てようとしたらストラディバリウスだったというようなものです。

その後、ニューヨークでオーバーホールしながらスタインウェイの過去帳で調べたところ、まさにこの製造番号はCD199と判明して、予想は的中したわけだ。
日本に持ち帰ってからは数々のコンサートやレコーディングで活躍しているので、このピアノの音を聞いた人も多いと思います。
(ちなみに、映画「イキガミ」音楽は確かこのピアノで録音しましたね。)
あのとき、サウンドボードの裏に小さくCD199と引っ掻いた傷と一回り小さい屋根、交換された新しい脚、に気がつかなければ、ただの1921年末製造のNo.209969D型として、その輝かしい過去もしられずにアメリカのどこかに売られていたでしょう。


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最近発売された「グレン・グールドのピアノ」という面白い本があります。
かなり詳しく戦争前後の時代のスタインウェイの話が出てきますが、なんとその中に何度か、このCD199の事が出て来ます。
何人ものアーティストがこのピアノをコンサートで指定して、中でも特に虜になったのはゲーリー・グラフマンである、と紹介されています。
この手の本としては珍しくピアニスト本人はもとよりピアノにスポットを当てて書いてあるところが嬉しい。
残念ながら著者、訳者ともに専門のピアノ技術者ではないので、ところどころに間違いがあるけれど、概ね正確で良く調べてある。
CD番号がついたスタインウェイは時々番号を変えるという事も事実。
しかし過去にあった同じ番号に変えられ事はないので、それを捜すのもまた夢のある話だ。
まさにミステリアスな幻のスタインウェイだ。