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NY-B History

それは15年ほど前のニューヨーク。
東京のアーティストからニューヨーク・スタインウェイのB型を探して欲しいと頼まれていたので、仕事の合間にスタインウェイのTrade inフロアに行って、いろいろ物色していた時、あるBに目が止まった。

それは1960年のBで、それほど古くはないのに、四隅の角が丸くなっているくらい傷だらけで、おまけに汚い。
ベースの弦も何本か切れて張り替えられているので、そこだけ妙に光っていて、見るからに疲れた楽器だった。
内心あまり音は期待せずに(これなら安いだろうという期待はあったが)パラパラと弾いてみたら、ゲ~ッと言うほど素晴らしい音がする!
深みのある低音域、コロコロと玉になって転がる高音域、外観とはうらはらに、理想的な鳴り方をするスタインウェイ、まさに探し求めていた楽器だった。
当然この外観なら安いだろうと思って聞いてみたら、なんとお隣の綺麗なBと同じ値段だ!彼らも良いピアノは良く知ってるなあ…。

ピアニストに頼まれた値段より大幅に高い。しかしどうしても欲しかったので、その夜電話した。「差額は僕が払うので、絶対この楽器を買いなさい!そのかわり、いつか返してね、この値段で買い戻すから。」
そしてこの楽器は日本に来た。本当は自分で買いたかったけど、当時は買えない値段だったし、これは何とかして日本に持ち帰りたかったからね。
半月後、楽しみにしていたBが成田に着いた。
工場で開梱して、ピアノを組み立ててみて驚いた。
低音側の側面に見慣れない丸いステッカーが貼ってある。
よく見ると、それにはRCA Studio と書いてあった。何と60年代に、ブルーノートのジャズやポップスをたくさん録音したであろう楽器だった。
どうりで王道のような音がするわけだ。
オリジナルを損なわないように神経を使って消耗部品を交換して納入。

そして15年。そろそろ最初のオーバーホールの時期を迎えたので、ちょっと御相談。お約束の買った時の値段で買い戻したい!と。
実際は買った時よりもさらに高い値段で引き取る事になったけれど、15年振りに帰ってきたBを、取りあえず大分でちょっと鳴らしてみました。
この子も来年から大活躍してくれるでしょう!愛称は当然RCA。
さっそく傷直ししてあげなきゃ、これから人前に出るからね(笑)